企業法務担当者様向けブログ

被害の深刻化と個別クレジット契約の規制

前回、個別クレジット契約をクーリング・オフした場合、既に支払った金額があれば全額返金してもらえるとご紹介しました。

このような仕組みは、販売業者が倒産したときやクーリング・オフに応じなかったときでも、個別クレジット会社から代金の回収を行うことができるという点で、消費者にとってメリットがありますが、一方で個別クレジット会社は、既に事業者へ立替払いをした代金を回収できなくなるリスクがあります。なぜこのような仕組みになっているのでしょうか。

そもそも割賦販売法が改正された経緯として、高齢者を中心とした次々販売の被害の深刻化がありました。2008年改正以前には、消費者の支払能力を判断するにあたって、持ち家があれば持ち家を処分して支払える金額まで、高齢者の年金受給者に対しては年金の全額までを支払能力とみなし、高額な個別クレジット契約を結ばせることがありました。また、次々販売の他にも、マルチ商法では学生や主婦、内職商法では求職者といった、十分な資金が手元にない人をターゲットにして「月々分割で支払えばいい」などと言って高額なクレジット契約を結ばせていました。

しかし、無理のあるクレジット契約を結んだ結果、持ち家を差し押さえられたり、高齢者の年金の全額をクレジット契約の返済に回したりすれば、消費者は生活できなくなってしまいます。個別クレジット会社がノルマ達成のために消費者の生活を無視した契約をしていたことが、深刻な被害の一因となったのです。

そこで2008年改正では、支払能力の判断基準を整備し、個別クレジット会社に消費者の支払能力の調査を義務づけました。また、個別クレジット会社には販売業者の勧誘方法について調査義務があり、販売業者が特定商取引法の禁止行為を行ったとわかった場合、個別クレジット契約の締結が禁止されています。特定商取引法の規制の対象となる事業者は数が多く、行政が取り締まるのにも限界があるため、個別クレジット会社への規制を行うことで、被害深刻化するのを防いでいるのです。

個別クレジット契約のクーリング・オフについても同様に、個別クレジット会社にリスクを負わせることで、販売業者が不当な取引を行わないように監視を促す意味があるのです。