無期転換ルールを導入する場合、もしくは導入しない場合の対応をご紹介してきましたが、どちらにしても今後人事管理が複雑化することは間違いありません。もし無期転換ルールに違反してしまった場合、罰則などがあるのでしょうか。
無期転換ルールが定められている労働契約法は、労働契約の基本的な理念や共通する原則、判例法理などを体系的にまとめた法律で、労働者と使用者が合理的な労働契約を締結することで、個別の労働トラブルを防止することを目的としています。
労働契約法は、労働関係の法律でよく知られている労働基準法とは別の法律です。労働契約を結ぶ場合、本来は労働者と企業が対等な立場で契約を結ぶべきですが、現実には企業側に主導権があり、労働者に不利な契約が結ばれがちです。労働基準法はこのような労使間のパワーバランスを調整することを目的とした法律で、労働契約の最低基準を定めています。この基準に満たない労働条件は無効になり、違反した場合労働基準監督署からの監督指導や罰則があるなど、強力な法律です。
一方で、労働基準法はあくまで最低基準を定めたものであるため、労働者と企業が対等な立場で争う個別労働紛争のような場合、そのまま当てはめて判断できないという問題がありました。多くの場合判例を当てはめて判断されていましたが、一般の使用者や労働者が個々の判例を調べ、どのような判断がなされたのか知ることは簡単ではありません。どういう場合に紛争になるのか、紛争を避けるにはどのような労働契約を結ぶと良いのか、一般の使用者や労働者にも分かりやすいように、判例法理を法律としてまとめたのが労働契約法です。
そのため労働契約法はあくまで民事的ルールであり、罰則の定めはありません。行政庁の監督指導は行われず、紛争になった場合は、都道府県労働局による個別労働紛争の解決援助サービス(情報提供・相談、助言・指導、紛争調整委員会によるあっせん)によって解決が図られます。ただし、違反した場合には民事上無効と判断され、損害賠償義務が生じるため、無期転換対象の労働者を多く在籍している企業では賠償額が多額になる可能性もあります。紛争に発展しないように、事前の対策をしっかり行っておくほうがよいでしょう。